外来診療のポイントOutpatient care

1)外来診察のポイント

成人脊柱変形患者の外来診察では、変形の形態を把握することは当然必要であるが、最も重要なことは、変形に起因する症状の有無と患者の希望を見極めることである.成人脊柱変形の腰痛関連QOL低下は、冠状面の変形よりも矢状面の後弯変形や、矢状面バランス異常、骨盤の後傾がより大きく関与していることがLafageら1)によって報告されており、国際側弯症学会においても成人脊柱変形の分類として30°を超える冠状面変形の他に、矢状面評価としてPI-LL(PI:Pelvic incidence, LL:Lumber lordosis)、SVA(Sagittal vertical axis)、PT(Pelvic tilt)の評価を加え、更にQOLを保つための目標値PI-LL≦10°、SVA<40mm、PT<20°をSchwabら2)が提唱している.これらの数値は骨盤での代償機構の状態,体幹の前方シフトの有無を把握する参考にはなるが、思春期特発性側弯症とは異なり変形の大きさが手術適応を決定する基準となるわけではない.

成人脊柱変形患者の症状は多岐に渡っている。代表的なものとして、立位姿勢保持時の腰背部痛や易疲労感、外観への苦痛や腹部圧迫による上部消化管通過障害、逆流症状などがある. 姿勢保持困難例や変形による体幹の苦痛があるかを見分ける方法として、肘伸側の色素沈着(キッチンエルボーサイン)や患者の両腋窩に手を入れて体を持ち上げた際の症状改善、体幹castでの症状改善なども診断の一助となる. また、成人脊柱変形患者の中には、神経根や馬尾の圧迫症状が主体であるが側弯、後弯変形を有する「狭窄症患者群」が混在しており,狭窄症に対する薬物治療、神経ブロックで症状が改善する可能性がある。もし手術となっても、それらの患者は必ずしも変形矯正を必要とせず、局所の除圧、あるいは除圧固定のみで症状は改善するため、手術に向かう前に十分に症状を吟味する必要がある.

成人脊柱変形患者においては、QOL改善は手術療法が保存治療に勝るとの報告3)がなされているが、矯正固定手術は手術自体の侵襲が大きく、合併症の発生率は高い. さらに術後に失う機能もあるため、必要のない矯正固定を行うことがないように外来診療の時点で、画像での評価のみでなく十分に症状を評価すると共に患者の生活環境、求めるものを把握することが重要である.

2)病態を把握するための諸検査

a) 単純X線像:立位全脊柱正面,側面像(必須)

i) 立位単純X線正面像にて,側弯の高位、Cobb角に加え、C7-CSVL(CSVL :Central sacrum vertical line)にて体幹の側方シフトをみる. さらに下位腰椎―仙椎に存在するfractional curve(major curveの下位にあるcurve)の大きさ、側方辷りの有無、骨盤の傾斜を把握する.
立位単純X線側面像にて、後弯の形態と高位、椎体骨折の有無、胸椎後弯角 (TK:Thoracic kyphosis T5-12)、腰椎前弯角 (LL: L1-S1)、骨盤傾斜角PT (Pelvic tilt)、仙骨傾斜角SS (Sacral slope)、PI:Pelvic incidence、SVA(Sagittal vertical axis)などを測定する.

  ii)単純X線像:腰椎正面,側面像(必須) 全脊柱X線ではアライメントや胸椎,骨盤の代償を見るが、高度の変性や骨粗鬆症を合併するような症例では,各椎体の詳細詳細な形態判別が難しい.そこで腰椎の画像で変形部位の椎体の形態や腰椎前後および側方辷りの有無や不安定性、そして椎体の癒合を評価する.

  iii) 単純X線像:動態撮影,前後屈,側屈(参考) 変性後側弯の主因は椎間の変性であり、椎間可動性の有無,程度把握が必要である.

  iv) 単純X線像:下肢,座位側面での胸腰椎アライメント(参考) 脊椎だけでなく変形性関節症や下肢変形による下肢長差、骨盤傾斜、股関節の拘縮、可動域制限が脊柱の形態に影響するため変形性股関節症の合併や股関節の手術歴、下肢の病変についても確認が必要である.

b) CT(参考)

椎体の形態、骨折の有無、椎体回旋や椎間関節の形態、変性、靭帯の骨化を評価する. 手術となりLLIF(Lateral lumbar interbody fusion)を併用する際には、椎体前方の血管群の走行や石灰化、奇形の有無、椎間関節癒合の有無を確認しておく. 血管走行の評価には造影CTも必要である.

c) MRI(参考)

変性後側弯症例では、中心性の狭窄は軽度でも椎体の傾斜、椎間の狭小化や回旋により椎間孔の狭窄が生じやすいため、傍矢状断像も確認する.

d) 骨量測定(参考)

成人脊柱変形患者では比較的高齢の女性患者が多くを占めるため、骨粗鬆症の有無を把握し適切な骨粗鬆症治療を併用する.

3)治療

a) 薬物治療

脊柱変形治療に特異的な治療薬剤は無い。疼痛に対してはアセトアミノフェン、NSAIDs、トラマドール製剤、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、オピオイドを使用し、神経障害性疼痛を合併したものにはプレガバリンやミロガバリンなどを処方する。先に述べたように、骨粗鬆症を合併したものには適切な骨粗鬆症薬物治療が必要である。ただし、手術治療適応のある患者に対し、手術治療の情報を提示せず漫然と鎮痛剤処方を続けるべきでは無い。

b) 理学療法

変形の進行、症状は体幹筋、下肢筋力低下が関与する。理学療法、筋力訓練、歩行訓練、股関節を主とした関節可動域訓練は重要である。

c) 体幹装具

成人脊柱変形患者に対する体幹装具治療でバランス、筋力などの改善が得られたとの報告があるが、少数である。

d)各種ブロック

トリガーポイント、椎間関節、椎間板、神経根、硬膜外ブロックなどを疼痛の原因と思われる部位を特定した上で行う。

参考文献

1) Lafage V, Schwab F, Patel A, Hawkinson N, Farcy JP.:Pelvic tilt and truncal inclination: two key radiographic parameters in the setting of adults with spinal deformity. Spine 34 (17) 99-606,2009


2) Schwab F, Ungar B, Blondel B, Buchowski J, Coe J, Deinlein D, DeWald C , Mehdian H, Shaffrey C, Tribus C, and Virginie Lafage :Scoliosis Research Society—Schwab Adult Spinal Deformity Classification. Spine 37 (12) :1077–82, 2012

3) Keith H Bridwell , Steven Glassman, William Horton, Christopher Shaffrey, Frank Schwab, Lukas P Zebala, Lawrence G Lenke, Joan F Hilton, Michael Shainline, Christine Baldus, David Wootten : Does treatment (nonoperative and operative) improve the two-year quality of life in patients with adult symptomatic lumbar scoliosis: a prospective multicenter evidence-based medicine study.Spine34 (20) 2171-8, 2009